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インフレとデフレ

二〇〇八年の秋、リーマンショックといわれたアメリカ発の金融不況は世界中にまん延しました。わが国もその影響を受けましたが、影響の範囲は単に金融だけではなく、航空、ホテルなどのサービス業から製造業まで幅広いものでした。お金が回らなくなって経済活動が停滞した結果、関係ないと思われる分野にまで影響が広がってしまいました。この原因となったのは、アメリカのサブプライム層といわれる所得の低い世帯への住宅ローンでした。不動産の値上がりを見込んだ住宅ローンが見込みどおりにいかず、ビジネスモデルが破綻したのです。そもそも無理がある商品設計だったと後日談的な批判もありましたが、このビジネスモデルにとって、一番いいのはインフレであっても価格が上がっている限りは破綻しなかったのです。

ところが思ったような値上がりをしなかったために、低利の住宅ローンへの借り換えができずに破綻する人がたくさん出てしまったのです。この間題は、クレジットの古典的な教科書に書いてある理論が現実化したものということができます。このようなことです。好景気のとき、人びとは賃金の上昇を期待し実現されるから、クレジットを使って買い物をする。その結果、景気は加速されて不安定な状況に陥る。逆に経済が停滞した不況状態に陥ると、人びとは将来の所得の減少を恐れ現在の負債を減らそうとする。結果的にクレジットの利用は控えられ、返済にお金が回って消費はさらに停滞する。

すべての人が合理的な行動をするのなら理屈ではこうなります。現在はデフレですからクレジットの利用が控えられ、これまでの負債の返済に回って、景気はさらに悪くなるということになります。さらに最近では、貸金業法の改正や割賦販売法の改正によって、与信の枠を法律で狭めた結果、官製の不況が起こっているという指摘があります。さて、この経済学的なモデルは実は法律に残っています。割賦販売法は一九六一年にできた法律ですが、ここにある「標準条件」という規定のことです。この法律はすでに制定後半世紀になろうとしていますが、制定当時に盛り込まれた規定がすでに使われることはないにもかかわらずいまだに残っています。

この規定も先ほど紹介した所有権留保の推定と同じように、自社割賦(第2条第1項第1号)のみが対象になります。対象となる商品は、自動車、エアコン、カラーテレビの三品目でしたが、最後まで残っていたトラックとバスが二〇〇〇年に廃止になって現在は使われていません。クレジットを組みやすくしたり、組みづらくしたりすることによって、割賦販売業者の健全性を保つと同時に、受給バランスの不均衡を防ぐことが目的になっています。与信そのものを規制しても同じことが期待できます。ただし、与信を規制した二〇〇七年改正の貸金業規制法も二〇〇八年改正の割賦販売法も目的としているところは、多重債務者の防止であって需給バランスの調整という考え方はありません。

クレジットとローンの違い

クレジット(消費者信用)は消費者に与信する行為といいましたが、与信の対象物が広義の商品である場合と、金銭である場合で用語の使い方が異なります。商品を対象とした場合のクレジットをクレジットといい、金銭を対象としたクレジットをローンということもあります。また金銭を対象としたクレジットをキャッシングということもあります。いずれも一般用語化していますが、キャッシングは英和辞典には載っていない和製英語で商品名です。以下、クレジットとローンについては、物販と融資という区分けで書き進めることにします。商品に対する与信とはいっても返済はお金でするわけですから、先ほども書きましたがクレジットとローンは何も違いません。

例えば一〇〇万円の自動車をクレジットにした場合でも、一〇〇万円のお金の融資を受けた場合でも、返済するのは利率の違いはありますが、一〇〇万円のお金です。自動車のクレジットとはいっても自動車を一〇〇万円分返すわけではありません。まず与信側から見てみましょう。与信の基準になるのは、与信したお金が返ってくるかどうかです。自動車の場合は、もし返済されないとしても自動車を担保にしていますから、その分は不払い額からマイナスすることができます。自動車は登記制度のある特殊な商品ですが、それ以外の商品でもそれなりの価値は残ります。

法律上適用になるのは、自社割賦といわれる二者間のクレジット契約(第2条第1項第1号に規定する割賦販売)ですが、三者間契約のクレジット契約書にもたいてい取り入れられています。物販のクレジットに対して、お金を融資した場合に担保になるものは何もありません。消費者金融会社の広告に「無担保・無保証」という言葉を見かけることがありますが、消費者金融はまさにここが特徴になつています。ただし、奨学生のような特殊なローンは制度として、連帯保証人を取るようになってます。次に借りる側から見た場合の違いを見てみましょう。負債として背負う負担はまったく同じですが、用途の問題だけです。

お金の場合の用途は借りるときに決まっているものもありますが、使途自由のものもあります。無担保・無保証の消費者金融の場合は、どちらかというと使途自由が多くなっています。このお金がここで例に挙げた自動車の購入に振り向けられているのであれば、負債に関する目的はまったく同一ですが、ここに困った問題があります。お金はどんなものにも使えるのです。平成不況が続く中、消費者の多重債務が社会問題になりましたが、この原因は借りたお金が借金の返済に回るいわゆる自転車操業に起因します。つまりお金の使いみちに借金の返済というジャンルがあって、それを繰り返すから多重債務に陥ってしまうわけです。同じ一〇〇万円でもモノとお金ではこれほど性質が違うのです。

消費者に対する与信サービス

さて、クレジットは日本語では消費者信用と訳されます。英語ではコンシューマー・クレジットといいます。提供者については特にこだわりません。銀行であろうと、ノンバンクのクレジット会社であろうと、消費者が決済もしくは支出の平準化機能を受けるのであればクレジットといいます。お金を借りるキャッシングも同様にクレジットです。与信の対象物は確かに違いますが、家計における負債という意味では同じですから、あえて区別しないで話を進めることにします。このようなサービスを消費者が受けるためには一定の条件が必要です。一時的に、もしくは長期間にわたって本来その消費者が支払うべきお金を、このサービスを提供する会社が代わって相手先に支払うからです。

つまりクレジットを提供する会社は、消費者に信用を供与(与信)した証しとして、その消費者に代わってお金を相手先に払っているのです。もしくは貸し付けているのです。もちろんこの項の見出しになっているサービスというのは、それを無料で提供しているという意味ではありません。提供する役務の対価として金利をもらうことになります。この消費者の代わりに払ったお金が金利付きで戻ってこなければ、クレジット会社は破産します。そこでこの与信サービスは誰もが受けることができるものではなく、一定の限られた人だけが受けられるサービスとなっています。

つまりどういったサービスかというと、返済可能見込みの高い人だけが受けられるサービスということです。「借りたものは返す」というのは道徳の一種ですが、必ずしも道徳心では返したいと思っていても、できない事態に陥ることがあります。中には最初から「借りたものは自分のもの」という人もいます。こういった人は犯罪者ですが、社会の中にごく少数ですが存在します。そこでこの与信サービスは、与信対象とした中のある一定数は返済不能に陥るという前提で組み立てます。こういうと人間不信を前提としたビジネスというように思われるかもしれませんが違います。

どれほど慎重で計画的な人であっても、何が起こるかわからないのが人生というものだからです。すべての人がすべて計画的かつ計画どおりに進められるのであれば、クレジットを利用したいという人すべてに与信することが可能です。ところがそうはならないので、一定数の不払いを計算した上でビジネスとして成り立つように組み立てるのです。これを保険の考え方と同じですが大数の法則といいます。このような一定の不払いを見込んで、どのくらいの金利にするかがこのビジネスのポイントになります。

一方、与信の対象が事業者になる場合はクレジットとはいいません。一般的には事業者に融資するのは銀行ですが、一部のノンバンクは事業者を相手に与信業務を行っています。貸金業法は、ノンバンクが行う融資を規制する法律なので、このような事業者向け金融会社も対象になります。逆に銀行は銀行法の規制下にあるので、この法律の規制対象にはなっていません。割賦販売法は、消費者を相手方にした与信の仕方を基準に法の適用があるので、提供者がバンクであるかノンバンクであるかは問わない仕組みになつています。

債務の健全性

どんな債務でもそれが当人の返済能力を超えた場合は、不健全な債務としていろいろ問題が起きます。お金を借りるキャッシングが蔓延して、多重債務者の問題が社会問題になったことがその象徴です。このような多重債務者も、最初からお金の借り入れで債務がスタートしているわけではありません。たいていの場合は、何かの支払いに現金が不足してそれを補うために借金をして、その返済のためにさらに借金を繰り返した結果です。クレジットの利用がその原因になっていることもよくあります。

個人の家計は国家の財政とは違いますから健全財政が前提ですが、信用力が弱く収入も簡単に増やすことができませんから時として不足が生じます。その不足を一時的なものとして元の状態にリカバーできないと多重債務に陥るわけです。では、クレジットの利用における家計の健全性について考えてみましょう。例えば公共料金などのようにほぼ毎月支払いが発生するものをクレジットカードで支払うのは、固定費の決済ということでそれ自体は問題ではありません。もともと銀行口座の自動振り替えを使って払っていたものをクレジットカード払いにしただけだからです。

ところがこういった性格の料金を、平準化を目的に利用するとなると話は違ってきます。平準化は月々の支払額をあらかじめ決めてしまって、それを超える分を翌月に繰り越すのですが、当月支払うべき料金を次月以降に繰り越すと当然ながら、次月には前月の分まで加算されます。これを繰り返していると債務は簡単に増えます。しかも余計な利息まで支払う必要が出てきます。食費なども似たような性格のある支出ということができます。これはクレジットカードの二面性ともいうべきものです。利用の場面ではどちらもクレジットカードを利用しただけです。

ところがその利用する人の動機までは知ることはできません。しかも一時的な資金ショートを繰り延べでリカバーするのであれば、それは合理的な方法といえます。どう使うかもクレジットカード利用者の選択の範囲であって、他人がどうこういう筋合いのものでもありません。すべての問題はここに集約されます。お金の使い方がその個人の自由である以上、クレジットカードの使い方も自由なのです。その人の自覚と責任の下で自由であるべきなのです。しかし多重債務者のような問題が発生すると、その自由が損なわれます。一面では過剰な債務で不幸になる人を防ぐこともありますが、それ以外にも問題は波及するのです。

個人が与信を受ける意味

消費者がショッピングやキャッシングで信用供与を受ける理由は、①支出の平準化と②決済の二つの機能を求めるからです。しかし、それは家計が健全な状態であるか、不健全な状態であるかによって、それぞれ意味が異なります。家計費の支出は固定費と変動費に分けることができますが、それを平準化・決済の区分で整理すると以上のようになります。もちろんお金の使い方は個人的なものですから、断定的なものではありません。まず支出の平準化と決済について説明します。支出の平準化とは、あらかじめ支払い回数を決めた分割払いや、リボルビングクレジットを利用して、家計の支出を単月ではなく将来にわたって繰り延べする機能のことです。

月々の支払額を一定にすることによって当該支出の負担を分散することができます。家計の負担は少なくなりますが、繰越額については金利がかかります。決済はクレジット利用代金を指定期日に全額一括で支払うものです。クレジットカードで最もよく利用されている、マンスリークリアといわれる翌月一括払いが該当します。支払いの指定期日を先延ばししたボーナス一括払いも形の上では決済に似ていますが、支払いを平準化した複数月分の支払いをまとめて行ったものと見ることもできますので、厳密には決済ということはできません。

それでは家計費を重要な支出項目である衣・食・住に分けて、それらがクレジットの利用とどのような関係にあるか整理してみます。横軸に家計費を置き、両極に固定費と変動費を置きます。毎月確実に同じ金額が支出される固定費もあれば、多少変動がある公共料金のような固定費もありますから、中間点はどちらにも当てはまるものと考えます。変動費は支出を抑えることもできるものという性格です。それにクレジットの機能である平準化と決済を重ねます。現代のクレジットカードはその90%が一括払いの利用ですから、必然的に決済の領域を多くカバーしています。

そして決済の領域でも変動費的な支出にウエートが置かれます。簡単にいえば日々、月々の支出の中で、現金払いで何も問題ないものがクレジットカードに置き換わるわけです。伝統的なクレジットカードの決済での領域はこの部分でしたが、この領域はどんどん広がっています。同じ食費でも外食は変動費の範囲ですからクレジットカードがなじむのは当然としても、スーパーでの食費についてもクレジットカードが利用されるようになっています。公共料金は固定費的な変動費ですが、この分野もクレジットカードがカバーするようになっています。